AI美女にエロはあるか|山内萌

「加工は3割増しを目指している。実物に会うと、会えた嬉しさや挙動でよりかわいく見えるから、3割増しくらいでちょうどいい。それ以上だと盛りすぎだし、それ以下だと勿体ない」
インターネットでグラビア活動を行っているインタビュー協力者が、こんなことを言っていた。自撮り加工の話である。
スマートフォンで自撮りを撮影し、それをアプリで加工する、という一連の流れは若者の中ですっかり定着した。ソーシャルメディアに自撮りを投稿する際に加工が欠かせないという人は多い。冒頭で挙げたような、自分の顔や見た目を商品として流通させているグラビアアイドルやインフルエンサーであればなおさらである。
インターネットに投稿されている顔は加工されていて当たり前だと思ってよい。むしろここ2、3年は、プリクラや自撮りをあえて加工せずにソーシャルメディアにアップすることが「逆張り」として若い女性の間で流行るほどに、自撮り加工は当たり前のことになっている。
自撮りの加工は実際やってみると難しい。加工アプリを開くと、実にさまざまな顔のパーツに対して、こと細かに調整を行うことができる。顔の輪郭ひとつとっても、幅を狭めるのか、顎を短くするのか、顎の角度を細くするのか、頭を小さくするのか、無数の選択肢がある。とりあえず顎をしゅっとさせて、目を大きくして、鼻を細くして、顔の長さを短くして……などとやっていると、あっという間に「盛りすぎ」な顔が完成してしまう。「これ誰?」と加工した本人が思う。
だから、自撮りを加工するときは、なりたい顔を思い浮かべる必要がある。アイドルでも、インフルエンサーでも誰でもいいから理想の顔を想像しながら、実際の自分の顔との差異を埋めていくように加工を行うと、うまくいきやすい。
この前提からすると、冒頭の発言は次のように読み解くことができる。撮影会などでファンと実際に接するグラビアアイドルにとって、理想の状態にしておくべき顔は、ファンに見られるときの実物の顔だ。それはファンからすれば、実物に会った効果で3割増しにかわいく見えるものだから、写真の加工も3割増しを目指せばよい。
挙動や雰囲気とあいまって3割増しでかわいく見える実物の顔と、それを目指してかわいさ3割増しで加工される自撮り写真。そのとき、増した3割を引いた「ほんとうの顔」はどこにあるのだろう。あるいは、ファンが見たいのも彼女が見せたいのもどちらも「3割増しのかわいい」であるなら、もはや「ほんとうの顔」など必要ないのだろうか。
別の話を挙げよう。AIが発達した近年、アダルトビデオの世界では「モザイク破壊」という現象が起きているらしい[★1]。日本のアダルトビデオでは女性の性器はモザイク処理によって加工され、見えないようになっている。このモザイクをなんとか外したいという欲求は昔からあり、モザイク除去を謳ったコンピューターソフトの広告などもかつてのエロ本には掲載されていた(もちろん詐欺である)。
それがとうとう、2020年代に進化を遂げた。AI技術によって、女性器をあらわにすることができるようになった。しかし急いで付け加えなければならない。これは厳密には、モザイクを外す技術ではない。モザイクの向こう側にある女性器の形状をAIが予想し生成しているのである。ただし、この生成はかなり正確なようで[★2]、よく見ると不自然ではあるものの、言われなければわからないほどであるが。
モザイク破壊されたアダルトビデオの性器は、AIによって作られた、限りなく「ほんもの」に近い「にせもの」である。しかも私たちは、無修正動画の流出がなければ実際の女優の性器を知ることはない。そもそも、流出した無修正動画の真偽もわからないから、近似しているかどうかさえ本当は判別不可能なのである。
AIによって再現された性器はどれほど実物に近いのか。まったくのでたらめで、あくまで世の中に流布している画像に基づいた性器らしいものが生成されているだけなのか。それとも、元の女優の性器を忠実に再現しているのか。それを見るとき私たちが想像するモザイク破壊された性器の「たしかさ」はどこから得られるものなのだろうか。
モザイク破壊の例はまだ性器だけの話であって、女優の顔や身体は本人のものである。しかしいまや、生身の身体ではなく、もはやAIの身体そのものが欲望の対象にすり替わっている。というのもX上では、いわゆる「AI美女」と呼ばれるアカウントが多くのフォロワーを集めているのである。
2024年9月にはX上で「どう見てもAI画像なのに、23歳の巫女で処女という設定のアカウントにリプライが殺到している」と指摘するポストが話題になった[★3]。現在ネット上に残っている当該アカウントのスクリーンショットを見てみると、神社らしき背景の前に、バストショットで胸元がやや広く開いた白い着物を纏った女性が写っている。顔周りの髪の毛をゆるく巻いてアップにしているところなど、グラビアアイドルっぽい雰囲気でとても本職の巫女とは思えない。その顔も、SNSに投稿されているアイドルやインフルエンサーの顔の近似値のような印象を受ける。つまり2次元的な美少女顔で、やけに整っているのである。
明らかにAIで生成された美女を使ったアカウントというのは、巫女に限らず多数存在している。自らの性的な自撮りを投稿するいわゆる「裏垢女子」の身体を、AIが担っている。これはつまり、現実の女性身体がなくても、つまり男性1人でも、エロを商売にすることができるということだ。
このような、AI美女で一儲けしようとするユーザーを規制する動きもある。その代表例が、18歳以上対象のアダルトコンテンツを投稿・販売できる数少ないサイトであるファンティアにみられる。ファンティアには、同人も含めたクリエイターが「ファンクラブ」と呼ばれる個人ページを開設し、さまざまなコンテンツを投稿している。イラストや漫画のみならず、写真集や動画などの実写コンテンツも投稿できることから、個人制作の18禁コスプレ写真集や動画なども多数投稿されており、実質的に同人アダルトコンテンツのプラットフォームとなっている。
ファンティアでは、2023年5月より、生成AI主体の作品投稿が禁止されている。元々は、2022年10月に導入された、AI作品専用のカテゴリを設け、実際のモデルが出演する実写作品と区別するという対応にとどまっていた。しかし「昨今の状況を鑑み、クリエイター様とその作品を守る対応が必要」として「AI生成による作品の取り扱いを一時停止」すると発表したのだ[★4]。
この時期、インターネット上では生成AIコンテンツの是非をめぐる議論が活発に行われていた。その中心は2次元イラストで、イラストレーターが描いた作品を学習して生成されたAIイラストを投稿することは著作権侵害にあたるのではないか、またそれで集金をするのはさらに問題含みなのではないか、といった批判があがっていた。
さらにこの問題は2次元にとどまらず、実写作品にもおよんでいた。2023年2月頃に、限りなく実際の人間に近い造形でモデリングされた「AIコスプレイヤー」の画像が話題となった[★5]。AIコスプレイヤーの多くは、露出の多い衣装を着用し、胸を強調するポーズをとるなど、あからさまに性的に生成されている。これらの画像はインターネット上に投稿されたコスプレイヤーの写真を学習し生成されたと推測され、著作権的にも倫理的にもその問題点が当のコスプレイヤーたちを含むネットユーザーに指摘されていた。
このような流れの中で、ファンティアとしては人間のクリエイターに寄り添う姿勢を見せる形でAI作品を規制する方向に舵を切ったとみられる。ただし、そこにはもっと別の経営判断が絡んでいるのか、表立った情報だけではまだ不透明である。
ファンティアにファンクラブを開設する「裏垢女子」や、グラビアアイドルの同人活動をしている「活動者」の女性たちの話を聞いていると、やはりAI美女アカウントに対して批判的であることが多い[★6]。
例えば、ある裏垢女子は以下のように語っていた。
〔AI美女は〕顔も自然だし、イラストのAIっぽい感じではない。本当に実在する感じの顔で。でもみんなマスクしてて。ああいうの見ると複雑、本当に。
4日でファンティアの会員数抜かされたからね。今めっちゃお気に入り上位ですよ。実写カテゴリランキングは怪しいなと思って見てて。ディープフェイク禁止だからバレたらどうするのかな、売上全部没収されればいいのにと思いながら見てた。
〔自分とAI美女とは〕ジャンルが違うんだから比べたらダメってめっちゃ言われる。でもやっぱなんかムカムカしちゃう。
プラットフォームにAIで生成された作品を禁止する規約があったとしても、日々進化するAI技術を駆使して、さも本物の人間であるかのように入り込んでくるユーザーを完全に阻止することは難しい[★7]。ディープフェイクという確たる証拠がない限り、運営も追及しきれない。裏垢女子や活動者にとって、自分たちと同じカテゴリにAIと思しきクリエイターがいて人気を集めているというのは、複雑な気持ちにならざるを得ない状況だろう。
そのようなある種のライバル視と対抗心は、彼女たちのクリエイターとしての矜持からくるものだと思われる。読者の方々は意外に思われるかもしれないが、自らの性的な自撮りを投稿し、見る者に性的な消費を積極的にうながしている裏垢女子や活動者の女性たちは、自分たちの活動に「作家」としてのプライドをもっている。
彼女たちは画像のことを「作品」と呼び、SNSに投稿する際は画像内にアカウント名を記載(すなわち「署名」)している。そして、無断転載やなりすましアカウントの作成など、作品の悪用があればプラットフォーム側に報告を行っている。性的な活動をしていることでイロモノのように見られることを承知しているからこそ、彼女たちはある種のプロフェッショナリズムを意識的に発揮しているのだ。
だからこそ、彼女たちは男性が女性の身体や性的魅力を搾取することに非常に敏感でもある。ここでいう「搾取」とは、性的搾取、すなわち女性を性的な対象として消費することではなく、資本主義的に搾取することを意味する。女を使って金儲けをしている男性に対し、彼女たちは批判的である場合が多い。
裏垢女子や活動者の女性たちを取材している中で、よく聞かれたのは「悪い運営」というフレーズだった。
悪い運営について説明するためには、少し前置きが必要である。彼女たちにとって、活動の最善の形は、撮影から販売まで女性本人が担うというものである。これは単純な商売の話で、商品の生産から流通をすべて自分で行えば、利益もすべて手に入れることができるからだ。
しかし現実はそうもいかない。撮影にしても、毎回衣装や場所、シチュエーションを考えなければならないし、何枚も撮影して投稿しようとすれば、その分加工に時間がかかる。「毎日投稿」をしている活動者も少なくないので、そういった同業者に並ぼうとすれば投稿頻度も上げなければいけない。ファンティアへの投稿も、サイトのユーザーインターフェースがやや複雑なので、苦手な人にとっては苦痛になる。また最大の問題として、得られた収益の管理、具体的には確定申告などの税務上必要な手続きのハードルが高いということもある。
活動を行う上での諸々の事務的な作業ができず、結果として売上もうまく立たないアカウントに忍び寄るのが、「プロデュースしてあげるよ」と甘く囁きかける男性である。つまり、売上管理や税金対策といった事務作業を請け負ったり、売上を伸ばす方法を教えたりして、その代わりに手数料を取って女性たちを「運営」しようとする男性が後を絶たないという。
しかしその実態は、ろくなプロデュースをしてもらえないとか、安易な顔出しのアダルト活動をさせられるとか、売上の配分が不当であるとか、話を聞く限り悪質なものばかりである。要は、性的な露出というリスクを負っていない男性が、女性の身体を商品としていいように使うだけ使い、売上を巻き上げていくという、性風俗産業にありがちな構造が「悪い運営」によってアマチュアの世界でも再生産されているのである。
それに比べれば、AI美女アカウントは福音のように聞こえるかもしれない。生身の女性が商品として使い捨てされることなく、アダルトコンテンツが流通するように見えるからだ。しかしながら、AI美女は無から生まれるわけではない。学習元の素材がある。その素材とは、同人の活動者から商業のモデル、グラビアアイドルまで、現実の女性たちが晒してきた肉体の画像なのである。そこには署名入りの作品も含まれるだろう。だとすれば、AI美女アカウントによる金儲けは、本人の許諾を得る/得ないという次元を超えた、悪用されているかどうかわからない悪用ということになる。明確に自分の画像が使われているとわかれば、本人たちも異議申し立てができるだろう。しかしAI美女アカウントは、彼女たちの画像を記号化された裸体の集積として(すなわち「署名」を外して)利用する。それは、幾重にも不可視化された形での女性たちの身体の搾取にほかならない。AI美女アカウントもそのように運営される限りでは、新たなタイプの「悪い運営」ということになる。
AI技術は、まさに虚構としてのポルノグラフィを生成することで、男性たちの欲望を満たしている。本物の女性を装ったAI美女アカウントを、ただしくAIだと理解した上で楽しんでいる男性も中にはいるはずだ。アダルトビデオのモザイク破壊についても、それは「ほんもの」ではないと知りつつ、その先に喚起されるイメージに欲望している者も少なくないだろう。だとしても、AI生成された女性身体を消費することは、「悪い運営」への加担につながるのだ。
だいぶ遠回りをしてきたが、ここで冒頭の問いに戻りたい。私はそこで、「ファンが見たいのも彼女が見せているのも『3割増しのかわいい』であるなら、もはや『ほんとうの顔』など必要ないのかもしれない」と書いた。AI美女とは、ある意味でこれを証明する現象だ。そこには「ほんとうの顔」などなくて、ファンが求める「3割増しのかわいい顔」だけが無限に生成されている。
しかし、それではダメなのだ。先に述べたように、それは新しい形の女性身体の搾取である。たとえアダルトコンテンツとして提供される裸だとしても、そこには女性自らの作家性が宿っているから、作家の意思は尊重されなければならない。ポルノグラフィはときに「粗製乱造」という意味合いを含んで用いられる表現でもあるが、実際にはむしろ細部までこだわった作品づくりで個性を確立しているものも多い。AIにその再現は難しい。
もちろん、ポルノグラフィを消費する人々、つまり主には男性からしてみれば、欲望を満たしてくれるなら作家性など気にしないし、AI美女でも構わないと思うだろう。しかし私はポルノグラフィの問題を、女性の性と身体をめぐる「主体性」の問題としてとらえてみたいのだ。
裏垢女子や活動者の女性たちは、自分が見せたいように見せる限りにおいて、男性から自分の身体が性的な対象として見られることを受け入れている。そのとき女性たちは、見せたいように見せるという行為と、そこで主導権を発揮することに、自己表現の回路を見出しているように思われる。ポルノグラフィにおいてあらわれる、女性たちの主体性と自己表現の結びつきに、私は関心がある。
身体を性的に使って自己を説明すること。この行為がどのような仕組みで女性の主体性と関わっているのか。あまりに大きなその問いに取り組むのは別の機会に譲りたいが、ひとつ言えることはこうである。AI美女の裸に、自ら脱ぐ女のエロさはない。
★1 安田理央・稀見理都編『アダルトメディア年鑑2024──AIと規制に揺れる性の大変動レポート』、イースト・プレス、2023年。
★2 安田理央は無修正動画が流出している女優の性器を、AIによってモザイク破壊された性器と比較し、その正確さを検証している。前掲書、222頁。
★3 「『23歳、巫女で処女』という設定で、どう見てもAI画像なのに『可愛いよ♡』みたいなリプライが何百件も並んでる→人間は愚か…」URL=https://posfie.com/@petaritape/p/Uw3DdZ9
★4 「AI作品の取り扱い一時停止について」URL=https://spotlight.fantia.jp/news/ai_policy-2
★5 「〝AIコスプレイヤー〟というAI作画をリアル路線にし写真みたいな出力の画像に対する諸々の反応」URL=https://posfie.com/@ZE6GANE /p/9Veol4I
★6 性的なコンテンツを発信しているアマチュアのネットユーザーを指す呼称は定まっていない。「裏垢女子」という呼称も実は多義的で、収益目的だけでなく、収益を求めずただ異性との(性的な関係を含んだ)出会いを目的とするアカウントも含まれる。しかし取材をする中で、コロナ禍以降、裏垢女子といえば性的な写真や動画をファンティアなどのサイトで販売しているアカウントを指すという認識が広まっていることがわかった。裏垢女子の大きな特徴は、顔出しをしていないこと、していたとしても目元だけなど顔の一部にとどめていることである。ここでは、活動内容としてはほとんど裏垢女子と変わらないが顔を完全に出して活動している女性を、本人たちが自称として使うことが多い「活動者」と呼び、区別している。
★7 ファンティアはクリエイター登録をするユーザー全員に対して、身分証の提出を課すことで本人確認を行っている。また、投稿作品もすべて運営事務局が目視で確認しており、ガイドラインに違反する作品は公開停止にしている。しかし悪知恵を働かせれば、抜け穴を見つけることも不可能ではないだろう。性風俗産業で儲けようとする業者とそれを取り締まる者のいたちごっこは、古くから繰り返されている。「ファンティア[Fantia]の安全への取り組みについて」URL=https://spotlight.fantia.jp/tips/safety


山内萌



