ゲンロンサマリーズ(10)『独立国家のつくりかた』要約&レビュー|常森裕介

初出:2012年6月19日刊行『ゲンロンサマリーズ #10』
坂口恭平『独立国家のつくりかた』、講談社、2012年5月

要約
レビュー
本書は著者が路上生活者のライフスタイルを研究した成果を踏まえ、それを世界への眼差しや経済のあり方といった問題に抽象化し、さらに国家の設立という形で具現化した、理論と実践の二つの側面をもつ書物である。著者が設立した新政府は、そこに住む人間の生きる姿勢が、政府のあり方にダイレクトに反映される共同体である。
独自のレイヤーを見つけ出し、「態度経済」の中で交易する個人は、お金はないかもしれないが、強くて能動的な人間とみることもできる。これは、例えば路上生活者を弱者と捉え支援する、という考え方とは一線を画す。新政府では、誰もが自分に必要な資源の量を自覚し、何かしらの才能をもった「大臣」であり、誰かの「パトロン」になりうる。他人が困っていれば惜しみなく支援し、自らが危機に瀕したときは遠慮なく支援を受ける。そこには、例えば生活保護受給者を過剰に保護したり、あるいは保護されていることを理由にバッシングするような、一方的な関係はない。新政府の領土には、お金がない人も障害をもった人もいるが、弱者はいない。
本当に誰もが独自のレイヤーを見つけ強くなれるのか、そんな疑問も浮かぶ。著者は自身が躁鬱を経験し、鬱状態の中でひたすら思考し、物事を正確に判断する力=「絶望眼」を身につけたと述懐する。加えて、自分自身がどのように「交易」してきたか様々なエピソードを紹介している。著者自身が支援する側と支援される側を行き来しているのである。本書が説得的なのは、路上生活者の実践例だけでなく、総理大臣(著者)自身が生きる姿勢をさらし、理念を語っているからに他ならない。
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年6月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年6月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット


常森裕介
82年生。東京経済大学准教授。専攻は社会保障法。第1期ゲンロンファクトリー受講生。
ゲンロンサマリーズ
- ゲンロンサマリーズ(13)『イメージの進行形』要約&レビュー|円堂都司昭
- ゲンロンサマリーズ(12)『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』要約&レビュー|tokada
- ゲンロンサマリーズ(11)『地方の論理』要約&レビュー|徳久倫康
- ゲンロンサマリーズ(10)『独立国家のつくりかた』要約&レビュー|常森裕介
- ゲンロンサマリーズ(9)『ネットと愛国』要約&レビュー|峰尾俊彦
- ゲンロンサマリーズ(8)『ファスト&スロー』要約&レビュー|山本貴光
- ゲンロンサマリーズ(7)『統治・自律・民主主義』要約&レビュー|斎藤哲也
- ゲンロンサマリーズ(5)『(日本人)』要約&レビュー|徳久倫康
- ゲンロンサマリーズ(4)『一般意志2.0』要約&レビュー|入江哲朗
- ゲンロンサマリーズ(3)『団地の空間政治学』要約&レビュー|常森裕介
- ゲンロンサマリーズ(2)『謎の独立国家ソマリランド』要約&レビュー|海猫沢めろん
- ゲンロンサマリーズ(1)『「当事者」の時代』要約&レビュー|徳久倫康



