ゲンロンサマリーズ(5)『(日本人)』要約&レビュー|徳久倫康

初出:2012年7月3日刊行『ゲンロンサマリーズ #13』
橘玲『(日本人)』、幻冬舎、2012年5月10日

要約
レビュー
経済方面に強い作家・橘玲の、『大震災の後で人生について語るということ』(講談社)につぐ震災後2冊目の著作。前著が具体的な投資法や資産運用を主題としていたのに対し、今作では射程を広げ、人類学、社会心理学、政治哲学といった諸分野の知見を引きながら、従来の日本人論を覆していく。ポイントは、テーマはあくまで「日本人」であって「日本」という国家ではないことで、最終的には国家を超えた、グローバル時代の新しい「日本人」論が語られる。
ただし最終章の、世俗性の強い日本人だからこそリバタリアニズムのユートピアに辿り着ける、という展望には注意が必要だろう。著者も強調しているとおり、ユートピアの成立は日本旧来のシステムの崩壊や国内の格差拡大と表裏一体であり、それを単純に喜ぶことはできない。そしてさらに注意すべきなのは、日本人は特殊ではないと主張していたはずの著者が、最終章では日本人の特殊性を強調し、それがユートピアの可能性を秘めている、と結論づけていることだ。日本人特殊論を否定した結論として新たな日本人特殊論が導かれるのは、いささか奇妙な事態である。
著者は、ユートピアに辿り着けるのは、国家に依存せず超越者を信じない個人だという。結局のところ、その夢を信じるかどうかは、私たち一人ひとりの決断に委ねられているのだろう。
なお、著者のホームページ(https://www.tachibana-akira.com/)で、書籍化の直前に削られたパートが公開されている。興味を持たれたかたは、まずこちらを参照されたい。
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年7月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年7月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット


徳久倫康
1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。2021年度まで株式会社ゲンロンに在籍。『日本2.0 思想地図βvol.3』で、戦後日本の歴史をクイズ文化の変化から考察する論考「国民クイズ2.0」を発表し、反響を呼んだ。2018年、第3回『KnockOut ~競技クイズ日本一決定戦~』で優勝。
ゲンロンサマリーズ
- ゲンロンサマリーズ(13)『イメージの進行形』要約&レビュー|円堂都司昭
- ゲンロンサマリーズ(12)『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』要約&レビュー|tokada
- ゲンロンサマリーズ(11)『地方の論理』要約&レビュー|徳久倫康
- ゲンロンサマリーズ(10)『独立国家のつくりかた』要約&レビュー|常森裕介
- ゲンロンサマリーズ(9)『ネットと愛国』要約&レビュー|峰尾俊彦
- ゲンロンサマリーズ(8)『ファスト&スロー』要約&レビュー|山本貴光
- ゲンロンサマリーズ(7)『統治・自律・民主主義』要約&レビュー|斎藤哲也
- ゲンロンサマリーズ(5)『(日本人)』要約&レビュー|徳久倫康
- ゲンロンサマリーズ(4)『一般意志2.0』要約&レビュー|入江哲朗
- ゲンロンサマリーズ(3)『団地の空間政治学』要約&レビュー|常森裕介
- ゲンロンサマリーズ(2)『謎の独立国家ソマリランド』要約&レビュー|海猫沢めろん
- ゲンロンサマリーズ(1)『「当事者」の時代』要約&レビュー|徳久倫康




